本研究では、腎細胞の発癌過程におけるINFα領域の遺伝子欠損の意義を明らかにするために、INFα領域の遺伝子欠損を示すEkerラット遺伝性腎癌細胞株(ERC)を用いて以下の研究を行った。まず、INFαの遺伝子が種々の癌形質を抑制するか否かを検討するために、INFαの遺伝子領域が存在する正常のヒト第9染色体を微小核融合法によりERCに移入した(A群)。対照として、INFαの遺伝子領域を欠損したヒト第9染色体を同様に移入した(B群)。その結果、A群において分離されたクローンではB群に比べクローニング後早期に死滅するものが多かった。INFαの遺伝子発現については例数を増やして現在検討しているが、これまでの結果からINFα領域の遺伝子欠損が腎細胞の発癌過程に重要な関わりをもつことが示された。 一方、Ekerラット遺伝性腎癌の原因遺伝子であるヒト結節性硬化症遺伝子(TSC2)の働きを検討するために、TSC2の存在するヒト16番染色体をERCへ移入した。その結果、ヒト16番染色体移入クローンにおける細胞倍加時間と細胞形態は親細胞(ERC)と同様であった。また、これらのクローンではヒトTSC2遺伝子の特異的な欠失が認められ、さらにRT-RCR解析でもヒトTSC2遺伝子の発現は認められなかった。しかし、染色体移入後のクローンニング以前の細胞ではヒトTSC2遺伝子の発現が認められた。これらの結果から、TSC2遺伝子はEkerラット遺伝性腎癌細胞のin vitroにおける増殖に関わっていることが示され、ヒトTSC2遺伝子はがん抑制遺伝子としての働きをもつことが示唆された。
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