研究概要 |
溶接歴が腎細胞癌の発生に関与するか否かを検討するため,234例の男性腎細胞癌患者について,年齢を対応させた他疾患での泌尿器科入院患者150例,一般男性1000人を対照としたcase control studyを施行した。腎細胞癌患者では他疾患患者に比較して,技能的職業の従事者の割合が高く,農業の割合が低かった。全腎細胞癌患者181例中21例(11.6%)に溶接歴がみられた。岡山大学の腎細胞癌患者46例中8例(17.4%)が溶接歴を有しており,岡山大学泌尿器科に他の疾患で入院していた対照患者の5.2%,年齢による補正後の岡山市男性の7.1%に比べ有意に溶接歴を有する者が多かった。 単回吸入実験においては,溶接ヒューム暴露用に作製した木箱中で30分間ヒュームを吸入させたラットの肺胞には直後より鉄の沈着が見られた。肺胞中のマクロファージも鉄を貪食していた。続いて20匹の雄ウィスターラットを用いて長期の吸入実験を行った。1日3時間,週3回,3ヶ月間の吸入を行った後,経時的にラットの観察,剖検を行い,組織の変化をみた。1年後の腎組織において一部の鉄は腎の尿細管上皮に沈着しており,肺からの鉄が腎に到達しうると考えられた。4ヶ月後の腎組織において,一部の腎で核の異形を伴う再生像がみられ,別の腎では嚢胞上の変化が見られた。いずれの組織においても鉄の沈着がみられ,鉄の組織傷害と考えられた。腎細胞癌患者に溶接歴を有する者が多いこと,ニトリロ三酢酸鉄(Fe-NTA)というキレ-ド鉄を腹腔内投与すると高率に腎細胞癌を発生することが報告されているが,溶接ヒュームの吸入も同様の機序により腎に障害をおこし,発癌にいたる可能性があると考えられた。
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