研究概要 |
突発性男子不妊症は、未だに有効な診断法、治療法がないのが現状である。精子形成および精子成熟にアンドロゲンが関与しているのは周知の事実であるものの、その分子で生物学的機序は全く不明である。アンドロゲンは転写因子であるアンドロゲンレセプター(AR)を介して標的遺伝子を活性化し、作用を発現しているものと考えられ、突発性男子不妊症の一部にはARの標的遺伝子以降の障害によるものもあるものと推察される。今回我々はgenomic binding-site法をもちいて、直接ラットゲノムよりアンドロゲンの標的遺伝子の単離を試みた。 ラットアンドロゲンレセプター(AR)のDNA結合領域(AR-DBD)をベクター(pET15B)に組込み、ヒスチジンタグを有するペプチドとの融合蛋白質として、大腸菌を用いてAR-DBD蛋白質を大量に発現し、ニッケルカラムにて高純度の精製蛋白質を得た。この蛋白質が、既知のアンドロゲン応答配列と特異的に結合することをゲルシフトアッセイ法にて確認した。断片化したラットゲノムDNA中よりこのAR-DBD蛋白質と結合するDNA断片を選別し、ライブラリー化した。さらに数回AR-DBD蛋白質との結合反応を繰り返すことによって、特異的に結合するクローンを濃縮した。得られたDNA断片(200-3500bp)をプローブとして、各種臓器における発現をノーザンブロットにより解析した結果、5.8Kbpにメッセージをもち、精巣上体(精巣上体>肝>前立腺,腎臓>精巣)において特に強い発現を示すクローンが得られた。次に、アンドロゲンによるこの遺伝子の発現をノーザンブロットにより検討した結果、LH-RHアナログを用いた去勢により発現が消失したことから、アンドロゲンによりこの遺伝子の発現が制御されていることが判明した。精子形成および精子成熟にアンドロゲンが関与しているのは自明の事実である。今回我々が見いだした遺伝子は精巣上体においてアンドロゲンにより発現が誘導され、精子の成熟あるいは、運動能等に関係している可能性が考えられ、今後も継続した検討が必要と考える。
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