和歌山市においては、染料中間産物である芳香族アミン科研報告96製造工場の従事者の中から、高頻度に尿路移行上皮癌が発生している。我々はこの職業性尿路移行上皮癌が自然発生尿路上皮癌と疫学的に様々な点で生物学的行動が異なることを報告してきた。本研究はこの差異を遺伝子レベルで解析するために計画された。 1.平成7年度においては芳香族アミン曝露者における職業性尿路移行上皮癌発生に関わる労働環境因子を解析し、benzidineの製造取り扱い、小規模工場での就労、就労期間の長さが願発生に強く関わっていることを発表した。 2.芳香族アミン曝露者の宿主特異的因子として解毒酵素Glutathion-S-transferase遺伝子(GSTM1)の分布をPCR法によって検査し、腫瘍発生者にGSTM1遺伝子欠損者が多い傾向をみとめるとともに、労働環境因子との関連を検討し知見を得たので平成8年泌尿器科学会総会において報告する。 3.現在、こうした宿主特異的因子の検討のためにN-acethyltransferase2(NAT2)遺伝子分布についても検討予定である。 4.尿路移行上皮癌発生に関わると考えられているp53遺伝子を芳香族アミン曝露者に発生する尿路上皮癌において検索すべく、初年度においては自然発生尿路上皮癌において、抗p53抗体を用いた免疫組織化学的検査によるp53遺伝子過剰発現を証明しえた。今年度は職業性尿路移行上皮癌組織において検索し比較検討を行う。 5.本研究の最終目的として、芳香族アミン曝露者に発生する職業性尿路移行上皮癌におけるp53突然変異をPCR-SSCPによって証明し、自然発生膀胱腫瘍との間に遺伝子レベルで差があるか否かを証明したい。
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