3年間の研究実績の概要は以下の通りである。 1.HLA-Gの多型について HLA-Gのアミノ酸多型を世界で初めて発見し、この遺伝子頻度が日本人の中で最も高いものであると報告した。この新しい型は、WHOからG^*0104と命名された(業績1)。また、HLA-Gの1つの型であるG^*01012の塩基配列の誤りを発見し、訂正した(業績2)。 2.妊娠中毒症病態生理におけるHLA-G及び免疫の意義 妊娠中毒症胎盤全例で絨毛外トロホブラストのHLA-Gタンパク発現が減弱していた(業績3)。また、HLA-Gタンパク発現が減弱している全ての絨毛外トロホブラストにおいて、IL-2が存在しており(業績4)、関連性が考えられた。このIL-2の意義については、次のような研究結果が得られた。すなわち、トロホブラストは血管増殖因子を分泌しているが(業績5)、この分泌は、トロホブラストをIL-2で活性化したリンパ球で処理すると低下した(業績6)。妊娠中毒症患者において発症前の妊娠初期から、血清中IL-2濃度が既に上昇していた(業績7)ことと合わせ、妊娠初期の胎盤形成期に、トロホブラストのHLA-G発現減弱と関連した局所のIL-2放出が原因で、胎盤血管構築障害が発生すると考えられた。このことが、妊娠中毒症の発症に重要に関わっていると考察された。 3.HLA-Gのリンパ球サイトカイン分泌に及ぼす影響について HLA-Gを認識したリンパ球は、トロホブラストの増殖を促進するサイトカインであるIL-3の分泌を増加させ、トロホブラストの増殖を抑制するサイトカインであるTNF-αの分泌を減少させた(業績8)。 4.子宮脱落膜中のリンパ球の受容体について 妊娠局所である子宮脱落膜中のリンパ球はHLA-Gを認識するNatural killer receptor(NKR)を発現していた(業績9)。
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