研究概要 |
卵巣腫瘍の組織発生に関連して、婦人科開腹手術時患者の同意のもとに採取された卵巣表層組織の超微細構造を観察した。手術時開腹後直ちに卵巣表層組織を薄くスライスするように採取し,Karnovsky 固定液(+マイクロウェーブ)+オスミウム酸の二重固定後Spurr樹脂に包埋し,透過型電子顕微鏡にて観察した。光顕レべルでは,卵巣表層上皮細胞が観察症例28例中23例(82.1%),作成ブロック193個中97個(50.3%)で観察可能であった。また観察される上皮の多くは単層であったが観察症例28例中9例(32.1%)作成ブロック193個中13個(6.7%)に卵巣表層上皮の重層化が見られた。また卵巣表面の陥凹(いわゆる「切れ込み像」)が観察症例28例中9例(32.1%),作成ブロック193個中16個(8.3%)で認められた。他に封入嚢胞,乳頭状増殖などが観察された。標本採取時の注意深い操作(標本採取時卵巣表面をできるだけ触らない)により従来観察が困難であった卵巣表層上皮細胞の観察が高い確率で可能であった。卵巣表層上皮の重層化が比較的多くの症例で見られた。電顕レベルでは重層化が認められる部分の一部において上皮細胞間にextracellular spaceが出現,これを数個の細胞が取り巻き,嚢胞様形態を示していた。これらは細胞接着装置で相互に結合しており,space内は均一なdensityの物質で満たされていた。これらの所見と初期腺腫形成との間に何らかの関連がある可能性が示唆された。光顕・電顕レベルでの所見より肉眼的に正常卵巣であってもミクロのレベルでは本来単層であるはずの卵巣表層上皮に陥凹化や重層化(そして嚢胞化)が起こっていることが観察された。
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