研究概要 |
我々はヒト尿中に癌細胞の浸潤を著明に抑制する物質を見い出した。この物質の精製を行ったところurinary tryasin inhibitor(UTI)とアミノ酸配列が同一であり、inter-alphatrypsin inhibitorのlight-chainに一致することが判明した。UTIのcDNAの解析よりアミノ酸配列の全構造を解析した。このUTIは143個のアミノ酸よりなっているが、各種合成ペプチドを作成し、このなかで最も癌細胞の浸潤、転移を抑制する活性のある部位を検索するとともに、このペプチドを用いてin vitro invasion assayおよびin vivo metastasis assayを行った。In vitro invasion assayのためにはMatrigelを使用しBoyden chamberを用いたassay系を、また、in vivo metastasis modelにはC57BL/6 miceを使用し癌細胞を皮下移植する系と、癌細胞を尾静脈から直接静注する系を作成した。さらに、癌細胞にはUTIのreceptorが存在するためこのreceptorを利用して細胞表面にUTIを大量に結合させる方法を検討した。現在までに検討した癌細胞(Ovarian cancer,chariocarcinoma,mouse Lewis lung carcinoma cells)ではいずれも容量依存性に癌細胞の浸潤を抑制した。また、mouseによる転移抑制実験ではLewis lung carcinoma cellsを皮下移植する系と、癌細胞を尾静脈から静注する系を作成したが、いずれも効率的に癌細胞の肺転移を抑制したことをすでに報告しているので、この現象が普遍的であるかどうか、また、そのメカニズムについて検討しているところである。UTIは液相中よりも癌細胞表面に存在するplasminを特異的に阻害するため、metalloproteinasesの活性化も起こらず、結果として癌細胞の浸潤、転移が抑制されることは確実である。したがって、非常に将来性のある転移抑制剤として臨床応用される可能性が高い。
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