研究概要 |
研究実績概要 現在に至るまでの研究成果を以下に述べる。 ヒト尿中に存在する生理的物質に癌浸潤抑制作用があることを発見した。精製、同定に成功し、遺伝子解析の結果分子量40000の糖蛋白質であることが判明し、UTIと命名した。このUTIの転移抑制作用を増強させる方法としてdrug delivery systemを開発した。我々の検討で、UTIは直接癌細胞に結合するが親和性は必ずしも高くない(解離定数は200nM)。そこで、UTIを癌細胞に特異的に集積させるため、癌細胞膜に特異的に発現しているウロキナーゼレセプター(uPAR)を利用することを考えついたのである。uPARへのウロキナーゼ(uPA)の結合は約1nMで結合し非常に親和性が高いことが知られている。uPARに結合するのはウロキナーゼ(uPA)であるがuPAの分子全体は必要ではなくuPAに結合する部位としてアミノ酸末端(amino-terminal fragment,ATF)の配列が必要であり、uPAの活性基は必要ない。一方、UTIの転移抑制部位を詳細に検討したところカルボキシル末端の配列(HI-8)のみ必要であることが判明したので、このATFとHI-8を結合させた蛋白質ATFHI-8を架橋剤を用いて化学結合により作成した。このATFHI-8はUTI単独に比べて100倍も親和性が高く癌細胞のuPARに結合した。しかし、ATFとHI-8を結合させてATFHI-8を精製することは非常に収率が悪く大量生産することができないのが欠点である。ATFHI-8の収量は低いものの、UTIやHI-8単独よりも数倍強力な転移抑制作用を示すことも確認できた。しかし、この方法では大量生産が不可能であり、臨床応用に供することができないため大腸菌を用いた遺伝子工学的な手法によりこのキメラ蛋白質の大量生産を可能にした。現在このキメラ蛋白質ATFHI-8を用いて卵巣癌等の移植実験を行うことにより、UTI単独に比べて約1/10の投与量でUTIに匹敵する効果発現を認めている。近い将来、UTIおよびそのキメラ蛋白質ATFHI-8の安全性、毒性等の比較試験を予定している。
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