研究概要 |
哺乳類における受精のメカニズムは未だ十分には解明されておらず、特にヒトにおいてはほとんどわかっていない。そのため不妊治療における受精機能障害については十分な診断方法がないのが現状である。我々の開発したアクロビーズテストは先体反応を終了した精子の頭部に発現するCD46に着目したユニークな精子受精能検査であり、体外受精の結果と非常に良い相関を示した(Fertil. Steril. 63 ; 625-630, 1995)。またこの検査を国内20大学病院で検討し、体外受精時の精子受精能評価での有用性を確認した(日本不妊学会雑誌40 ; 368-373, 1995)。このアクロビーズテストで着目した精子頭部のCD46がヒト受精現象にどのように関わっているかは不明である。そこでCD46の細胞外ドメイン(short consensus repeat, SCR) 1-4に対する抗体とヒト精子-ハムスター卵の受精系を用いて、CD46のどの部位が受精に関与しているか検討した。その結果SCR-3が受精に関与しており、さらに精子と卵との細胞膜融合に深い影響を与えていることが判明した。CD46のSCR-3の部位は麻疹ウイルスのレセプターとしてウイルスと細胞の融合に関わっている部位であり、非常に興味深い結果となった。またヒト体外受精での良好な胚発生を可能にすべく、ヒト卵胞液の電解質、アミノ酸、エネルギー基質組成をベースとした新たな培養液作製にも着手している。マウス胚を用いた基礎的検討では現在用いられている他の培養液と比較して良好な胚発生を得ており、ヒト体外受精への応用について現在検討中である。
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