研究概要 |
本研究では,卵巣癌のp53遺伝子変異と薬剤耐性との関連を知るとともに,p53遺伝子導入による遺伝子治療の意義を明らかにすることを目的とした.同一卵巣癌症例の化学療法前後p53遺伝子異常について検討した結果,21例中,p53遺伝子異常は化学療法前には7例(7ヵ所)であったが,化学療法後では10例(12ヵ所)にみられた.p53蛋白の発現も化学療法後に増加した.p53遺伝子異常とp53蛋白発現は化学療法耐性癌で著明であった.また,耐性癌のp53蛋白量は化学療法後に増加した.これらの成績から,化学療法により,腫瘍のp53遺伝子変異やp53蛋白発現増強が起こり,その結果,薬剤耐性が発現することが推察された.さらに,グルタチオン系解毒酵素であるGSH,GST-πについて化学療法前後で測定した結果,GSH,GST-πは耐性癌で化学療法後に増加することが明らかとなった.卵巣癌において,p53遺伝子変異は比較的頻度が高く,耐性癌でその頻度が高かったことから,p53遺伝子導入治療は有効な治療法になりうることが示唆された.次に,以下の方法でp53組換えアデノウイルスを作製した.ヒトwild-type p53cDNA全長をpProSp53プラスミドベクターからBamHIとEcoRIで切り出し,Klenow酵素で平滑末端とした.コスミドカセットpAdex1CAwtのSwaI部位にwt-p53cDNAを挿入した.E3領域を欠失したアデノウイルス5型d1X(Ad5-d1X)からウイルスゲノム両端に共有結合した末端蛋白質を保持したゲノムDNA(DNA-TPC)を精製し,EcoT22Iで切断して,親ウイルスDNA-TPCを作製した.p53導入コスミドカセットDNAと親ウイルスDNA-TPCを293細胞にリン酸カルシウム法でco-transfectし,細胞内での相同組換えにより,組換えアデノウイルスを作製した.p53遺伝子欠損卵巣癌株SK-OV3とHeLa細胞を用いて,in vitroおよびヌードマウス移植腫瘍について,上記のアデノウイルスをvectorとしてp53遺伝子導入を行った.その結果,抗癌剤耐性克服に対するp53遺伝子導入の効果については今後の検討を要するものの,正常p53遺伝子を有する癌細胞においてもp53遺伝子導入により細胞増殖を抑制しうることを明らかとした.本研究成績から,p53遺伝子導入治療は卵巣癌に対する有効な治療法になり得ると考えられた.
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