研究概要 |
ヒト乳汁中に高濃度で存在する副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)の生理的意義を解明する目的で,分娩後長期にわたり乳汁中のN端,C端両フラグメントの濃度の推移を測定するとともに,それらと乳汁中の総蛋白,Ca濃度等との相関や乳汁分泌量との関係について検討した。その結果,N端PTHrP(1-87)濃度は分娩直後は低く,産褥10日目までほぼ直線的に増加し,その後は同レベルを長期間維持し産褥6カ月目でやや低下した。またC端PTHrP濃度の推移はN端部と同様の傾向を示したが,そのレベルは2〜5倍程度高かった。乳汁中の総蛋白濃度は産褥10日目まで減少しPTHrP濃度の推移と並行しなかったが,乳汁中のCa濃度およびCa量はC端PTHrP濃度およびC端PTHrP量と有意な相関を示した。さらに一日乳汁分泌量はN端PTHrP濃度と有意な相関を示した。 今回の検討から,乳汁中のPTHrP濃度の推移は総蛋白濃度の推移に伴う二次的なものではなく,初乳で低濃度であり,その後増加して,乳汁分泌確立後にほぼ一定となり,離乳開始とともに減少するという推移をとり,N端部が乳汁分泌に関与する可能性が示唆された。またC端部が乳汁中へのCaの輸送を担っている可能性が示唆された。 次に,産褥ラットの乳腺組織を摘出し,酵素処理とパーコール遠心分離により上皮細胞層のみを回収し,コラーゲン・ゲル上にて乳腺上皮細胞の初代培養系を確立し得た。 この培養系を用いて,まずPTHrPの基礎分泌状態を知るために,培養開始後経時的にその上清を採取し,上清中のPTHrP濃度を測定した。その結果,上清中のPTHrP濃度は培養開始後48時間後まで経時的に増加し,その後はプラトーに達した。また非妊娠,妊娠ラットの乳腺についても同様の検討を試みたが,上清中のPTHrP濃度は測定感度以下であった。
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