研究概要 |
確率密度分布図を用いた心拍数変動の定量的な解析から,ヒト胎児における脳機能障害の局在部位を出生前にどの程度まで同定できるかを目的とした.妊娠37-40週の無脳症を除く中枢神経系形態異常胎児12例(CNS群)(水頭症5例,Arnold-Chiari症候群3例,Dandy-Walker症候群1例,滑沢脳1例,Moeius症候群1例,頭蓋癒合症1例)を対象とした.対照には,1)正常胎児248例(C群)と2)無脳症胎児8例(Al群4例:頚髄まで,A2群4例:延髄まで存在する症例)の2群を用いた.各症例から90-120分間の瞬時心拍数値を収集した後,心拍数絶対値と次の1拍への変化分を行と列に配し,対応する要素に確率密度を有する確率密度分布図を作製した.ついで,CNS群の各胎児の確率密度分布図を各々に対応する妊娠週数の1)C群胎児の確率密度分布図ならびに2)A1/A2群胎児のそれと較べて,"差分値分布図"を作製し,CNS群のA1/A2群に対する差異を求め,"不一致率"と命名して指標とした.統計学的解析にはSmirnov棄却検定を用いた.その結果,1)CNS群のなかで,C群に対する不一致率が高値を示した症例は3例(3/12: 25.0%): Arnold-Chiari奇形(61.1%),滑沢脳(70.4%),Moebius症候群(72.8%)各々1例であった(p<0.05).2)上記3例のなかで,A1群胎児に対するMoebius症候群の不一致率は23.6%,A2群胎児に対するArnold-Chiari奇形と滑沢脳例のそれは各々21.1%,36.8%であった(p>0.05).出生後,Moebius症候群は延髄から橋に,Arnold-Chiari奇形,滑沢脳は中脳を含め,それより上位の脳実質に病巣が認められた.以上の成績から,心拍数変動の異常を呈する例では,1)脳幹あるいはそれを含めた上位中枢に病変を有していること,さらに2)病変部位が延髄かあるいはそれより上位中枢に存在するかによって2群に判別できることが分かった.
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