子宮頚癌はその90%以上にHPVゲノムが検出され、E6/E7領域は常に保持されている。このため、E6/E7遺伝子を標的としたホスホロチオエ-ト型ASにより細胞増殖の抑制がもたらされることが期待される。本研究では1.細胞増殖特性におよぼすASの効果、及び2.ASの高機能化を目的として研究を行った。 HPV陽性子宮頚癌細胞株、SiHa、C4II、HPV16型フルゲノムを導入した正常ヒト角化細胞PHK16を解析の対象とし、E6/E7遺伝子に対するホスホロチオエ-ト型アンチセンスオリゴDNA(AS)を作成した。コントロール細胞として正常ヒト角化細胞(NHEK)、HPV陰性子宮頚癌細胞株C33aを用いた。5mMのASの投与により、PHK16、C4IIでは著明な増殖抑制効果が観察されたが、SiHa細胞、C33a、NHEK、では増殖抑制効果は認められなかった。E7蛋白量はPHK16ではAS投与により著明に減少していたがSiHa細胞では減少の程度は軽微であった。AS特異的にE6/E7発現を抑制することにより、細胞増殖を抑制することが可能であることが判明した。SiHa細胞におけるASの取り込みは、保たれていた。従ってSiHa細胞においては、ASと標的遺伝子との結合の脆弱性がAS効果の観察されない原因となっていると考えられた。そこで、ASの標的mRNAへのハイブリダイズをより強固にするために、ソラーレン結合型AS(PS-AS)を作成した。PS-AS0.5mM添加により細胞増殖の完全な抑制が観察された。コントロールとして用いたNHEKには増殖抑制効果は観察されなかった。しかし、PS-ASはHPV陰性子宮頚癌細胞株C33a細胞にもSiHa細胞と同様の増殖抑制効果を示し、また、コントロールPS-AS(ナンセンスオリゴ)添加によっても同様であり、ソラーレン自体の毒性によるものと考えられた。NHEKは、ソラーレンの毒性に対する域値が高いため、増殖抑制が観察されなかったと推測される。 本研究では、HPV E6/E7に対するASの有用性が明らかにされた。しかし、細胞により標的遺伝子産物発現の抑制の程度が異なり、ASの高機能化の必要性が示された。そのため、ソラーレン結合型ASの効果を検討したが、ASの特異的効果より、ソラーレン自体の毒性が強く発現される結果となった。従って今後はソラーレン毒性に対する防御或いはPNA等のASの特異的効果を高める物質の開発を進める必要性があると考えられる。
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