研究概要 |
〔目的〕エストロゲン(E)の分泌が亢進する妊娠時に舞踏病が起こり,卵巣機能が衰退しEが低下していく時期に更年期障害が起こる。ドパミン(DA)ニューロンの機能亢進により舞踏が起こり,低下により運動障害や思考の遅延などの更年期障害に類似した症状が起こる。これらの事実はEのDAニューロンへの関与を示唆する。しかし,Eと脳内DAニューロンの関係については不明な点が多い。本研究ではEがDAニューロンにどのように影響を及ぼしているかを実験ラットを用いて検討した。〔方法〕8週齢のSDラットを,卵巣摘出群(OVX群,N=10),卵巣摘出+estradiol(E_2)投与群(OVX+E_2群,N=10),Sham operation群(Sham群,N=10)に分けた。OVX+E_2群はestradiol valerate 20 μgを実験直前まで週2回皮下注,12週以上投与した。(1)24時間運動量を測定した。(2)Methamphetamine(MAP,1mg/kg,i.p.)により誘発される2時間の運動量を測定した。(3)線状体,側座核,視床下部の脳内アミンの含量をHPLC-ECD法で測定した。(4)Microdialysis法を用いて線状体DA濃度の変化率を測定した。〔成績〕(1)OVX群の24時間運動量はSham群に比較して低下傾向を示したが,OVX+E_2で改善傾向が見られた。(2)MAP投与により誘発されるOVX群の2時間の運動量はSham群に比較して有意に低下したが,OVX+E_2群の運動量はSham群のそれと差を認めなかった。(3)脳内アミンの含量は何れの部位においても3群間で差を認めなっかた。(4)線状体の細胞外DA基礎放出量はOVX群で1.64±0.2,OVX+E_2群で5.39±1.58,Sham群で3.9±0.8fmol/minでありOVX群で有意に低下したが,E_2投与により回復した。MAP投与による線状体細胞外DAの反応はOVX群で低下し,E_2投与により回復した。〔結論〕去勢による運動量の低下はDA放出の低下に起因する。脳内DAおよびDA代謝産物の総量に差が見られなかったにもかかわらず,E_2投与によりDA測定値や基礎放出量が増加していることよりEがDAニューロンに作用してDAの放出あるいは再吸収に影響を及ぼしている可能性がある。
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