平成7年度における本研究の概要を以下にまとめた。 [目的]癌の浸潤、転移の過程で細胞外マトリックスを分解するプロテアーゼが重要な役割を果たしていると考えられている。われわれは、卵巣粘液性腺癌由来培養細胞株(MCAS)が、従来報告されている種々のマトリックスプロテアーゼに加え、消化酵素であるトリプシノーゲンを分泌していることを見い出した。今回、卵巣癌の進展におけるトリプシンの関与を明らかにするために、細胞株と臨床検体を用いてトリブシノーゲン遺伝子発現および蛋白の局在を検討した。[方法]卵巣癌由来培養細胞株よりtotal RNAを抽出し、Northern blot法およびRT-PCRにより増幅した産物のSouthern blot法によりトリプシノーゲン遺伝子発現を検討した。手術時に採取した臨床検体における遺伝子発現をNorthern blot法により確認した。トリプシノーゲン蛋白の局在は、抗ヒトトリプシン/トリプシノーゲンモノクローナル抗体を用いて、卵巣癌組織の免疫染色法により検討した。[成績]培養細胞株5株のNorthern blot法による分析では、MCAS細胞のみで遺伝子発現を認めたが、RT-PCR Southern blot法ではすべての細胞株で遺伝子発現がみられた。一方、臨床検体のNorthern blot法では、10例中8例に遺伝子発現が認められ、特に進行癌組織で強い発現がみられた。また、免疫染色法ではトリブシノーゲン/トリプシン蛋白は卵巣癌組織の癌細胞に局在していた。[結論]トリプシノーゲン遺伝子は、細胞株に於ても発現が認められるが、癌組織自体でより強く発現しており、強い蛋白分解活性を有するトリプシンが、in vivoにおける卵巣癌の浸潤、転移に関与していることが示唆された。
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