研究概要 |
1)細胞の形態の観察では、KFr13細胞(KFR)は薬剤を添加しないと孤立散在性の増殖を示すが、1μM TXL投与により浮遊細胞の顕著な増加を認めた。0.01μM TXL投与で巨核細胞の出現をみとめた。OVCAR-3細胞(OV)は島状の増殖を示し、KFRに比較し浮遊細胞の出現は少なかった。IC50はKFRでは、TXL0.0581μM、CDDP3.889μM、ADM0.775Mであった。OVでは、TXL0.2362μM、CDDP0.648μM、ADM0.0554μMであった。KFRはADM,CDDPに対して比較的耐性、OVはTXLに対して比較的耐性であった。3)細胞周期の変化はKFR、OVともにTXL投与によってG2+M期に集積した(69.5%-KFR,62.2%-OV,1μM TXL、24時間投与)。KFRは0.1μM以上のTXLで顕著なG2+M期集積と経時的なdebrisとhyperploidy細胞細胞をみとめた。OVは細胞増殖に影響を与えない0.01μM TXL投与によっていわゆるsub-G1細胞のpeakをみとめた(8.6%;1μM TXL,24時間投与)。このsub-G1細胞はアポトーシスに由来すると報告されている。4)Hoechst 33342染色による核形態の観察では、KFRにおいて細胞分裂中期(metaphase)に類似した核分剖像を多数みとめた。これは、3)で観察されたG2+M期細胞に由来するものと考える。5)Laser Scanning Cytometryの観察では、KFRにおいて1μM TXL投与で観察できなかったsub-G1に相当する領域に存在する細胞と、G2+M期に集積した細胞の一部にアポトーシス細胞をみとめた。OVにおいて、0.01μM TXL投与によって観察されたsub-G1細胞は、アポトーシスにおこした核や断片化した核、アポトーシス小体であった。1μM TXLにより、OVにおいてアポトーシスがすべての細胞周期に由来していることがわかった。6)TdTアッセイによりアポトーシス小体が染色されるが、同一標本内の染色性に差異をみとめアポトーシスの質の違いが考えられた。7)アポトーシス抑制機能をもつBcl-2蛋白質は、Bcl-2aがKFRでは細胞周期に関係なく発現しているが、1μM TXL投与により浮遊したKFRにアポトーシス回避機能をもたないBcl-2β(21kDa)が発現していることがWestem Blot法で明らかとなった。Bcl-2は0.01μM TXL、1μg/ml CDDP投与により発現しなかった。OVにおけるBcl-2蛋白質の発現は、G2+M期細胞にみとめられた。8)細胞周期制御物質であるcyclinについて検討すると、TXL投与によってcyclin B1とcyclin D1の誘導が観察された。これはOVに優位で、しかも細胞増殖に影響を与えない0.01μM TXLでcyclin D1とcyclin B1陽性細胞がより高頻度に観察された。
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