研究概要 |
本研究では、1.体内膜細胞の癌化に伴うフコース転移酵素(FT)の量的及び質的変化に関する解析 2.体癌細胞の転移に果たすフコシル化糖鎖の役割の解明の達成を目的とした、平成7年度研究において以下の成績を得た。 1.高分化型体癌由来培養細胞株SNG-IIを体癌に特異的なフコシル化糖鎖であるLewis^b型糖鎖の発現の有無により、Lewis^b型糖鎖を発現し、その合成に関与するα1-4FT活性が増加しているSNG-Sと、Lewisb型糖鎖を発現せず、α1-4FT活性が低いSNG-Wの2亜株に分け、親株であるSNG-II株と亜株であるSNG-S、SNG-Wにおけるα1-4FT (FTII)のmRNAの発現を、FTIIIのcDNAを用いたNorthern bolt法にて検討した。その結果、α1-4FT活性が増加し、Lewis^b型糖鎖の発現が認められるSNG-IIとSNG-SでのみFTIIのmRNAの発現が認められ、癌化に伴う異常糖鎖の発現に関与する糖転移酵素の活性亢進には、糖転移酵素mRNAの発現亢進による糖転移酵素蛋白の増量がその一因であることが判明した。 2.SNG-Wの高遠隔転移能の機序を明らかにすべく、SNG-SとSNG-Wのヒト帯静脈内皮細胞(HUVEC)との接着能をin situ adhesion assayにて検討した。その結果、細胞表面にLewis^b型糖鎖の前駆糖鎖であるH型糖鎖が発現するSNG-Wでは、H1型糖鎖がほとんど発現しないSNG-Sに比べ約2倍のHUVECへの接着能を認めた。さらにadhesion assayにおける抗体抑制試験にてSNG-WのHUVECへの接着は他の血液型糖鎖に対する抗体(Le^a, Le^b, sLe^a, Le^x, Le^y, sLe^x)による処理では変化しないのに対し、抗H型糖鎖抗体では抗体の濃度依存的にSNG-WのHUVECへの接着が阻害された。以上の結果より、SNG-Wの高遠隔転移能、HUVECへの接着能にはH型糖鎖が関与している可能性が強く示唆された。
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