本研究では、1.体内膜細胞の癌化に伴うフコース転移酵素(FT)の量的及び質的変化に関する解析 2.体癌細胞の転移に果たすフコシル化糖鎖の役割の解明の達成を目的とし、平成8年度研究において以下の成績を得た。 1.H_1型糖鎖を発現し、高い血管内皮細胞との接着能、肺への転移能を有するSNG-W細胞を無処理群、抗H_1型糖鎖抗体処理群、抗H_2型糖鎖処理群に分け、各群の細胞をそれぞれ30匹のヌードマウスに尾静注し、8週間後の肺転移率を検討した。その結果、抗H_2型糖鎖抗体で処理したSNG-W細胞の転移率は36.7%(11/30)と抗体処理を行わなかった場合の転移率33.3%(10/30)と差を認めなかったのに対し、抗H_1型糖鎖抗体で処理したSNG-W細胞の転移率は13.3%(4/30)と両群に比べ低い傾向を示したことから、体癌細胞で発現するH_1型糖鎖は、その遠隔転移能に直接関与することが強く示唆された。 2.H_1型糖鎖に対する血管内皮細胞側のリガンドを明らかにするため、血管内皮細胞をELAM-1あるいはICAM-1に対する抗体で処理した場合のH_1型糖鎖付着ビーズの接着態度を検討した。その結果、内皮細胞をILM-1βで前処理した場合、処理しない場合に比べ約6倍のH_1型糖鎖付着ビーズの接着を認めた。さらに、IL-1βで処理した細胞を抗ELAM-1抗体で処理した場合では、ビーズの接着はわずかにしか減少しなかったのに対し、抗ICAM-1抗体ではその接着は著明に阻害されたことから、体癌細胞表面に発現するH_1型糖鎖の血管内皮側のリガンドはIL-1βの処理によってその発現が増加するような接着分子の1つである可能性が明かとなった。
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