本研究では、1.体内膜細胞の癌化に伴うフコース転移酵素(FT)の量的及び質的変化に関する解析 2.体癌細胞の転移に果たすフコシル化糖鎖の役割の解明の達成を目的とし、以下の成績を得た。 1.子宮体癌由来培養細胞株SNG-IIを体癌に特異的なフコシル化糖鎖であるLewis^b型糖鎖(Le^b)の発現により、Le^bを強く発現し、その合成に関与するα1-4FT(FTIII)活性が増加しているSNG-Sと、Le^bを発現せずFTIII活性が低いSNG-Wの2亜株に分け、SNG-S、SNG-WにおけるFTIIImRNAの発現を、FTIIIのcDNAを用いたNorthern blot法にて検討した。その結果、SNG-IIとSNG-SでのみFTIIIのmRNAの発現が認められたことから、癌化に伴う異常糖鎖の発現に関与する糖転移酵素の活性亢進には、糖転移酵素mRNAの発現亢進による糖転移酵素蛋白の増量がその一因であることが判明した。 2.SNG-SとSNG-Wのヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)との接着能並びに抗体阻止能をin situ adhesion assayにて検討した。その結果、Le^bを発現せず、その前駆糖鎖であるH_1型糖鎖(H_1)を発現するSNG-Wは、SNG-Sに比べ約2倍のHUVECへの接着能を認めた。また、このSNG-WのHUVECへの接着は抗H_1抗体によって抗体の濃度依存的に阻害された。さらに、高い肺転移能を有するSNG-Wを抗H_1抗体あるいは抗H_2抗体にて処理後、ヌードマウスに尾静注したところ、8週間後の肺転移率は、抗H_2抗体処理群が36.7%であったのに対し、抗H_1抗体処理群では13.3%であり、SNG-Wの血管接着能、遠隔転移能にH_1が強く関与していることが判明した。また、H_1付着ビーズを用いて、H_1に対する血管内皮側のリガンドを検討したところ、内皮細胞を1L-1βで前処理した場合、無処理に比べ約6倍のH_1付着ビーズの接着したことから、H_1に対する血管内皮側のリガンドは、1L-1βの処理によってその発現が増加する接着分子である可能性が示唆された。
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