研究概要 |
ヒト卵巣は性周期に伴い、卵胞の発育がみられると同時にその卵胞の中から排卵に至る主席卵胞と退縮していく閉鎖卵胞の選択が行われている。今年度は、卵胞の運命の決定にかかわるゴナドトロピンや性ステロイド、卵巣局所で産生されるIGF系の分泌動態,相互調節機序の解析を行った。 1.患者の同意を得て開腹手術時に卵巣から卵胞液を採取し、卵胞液のestradiol(E)、androstenedione(A)をイムノアッセイで測定して、月経周期や卵胞形態を参考として、主席卵胞(排卵直前卵胞)、発育卵胞(A/E比<1.0)および閉鎖卵胞(A/E比>4.0)に分類し、卵胞液中の各種ホルモンとIGF-I系の動態の解析を行った。 A/E比は閉鎖,発育,主席卵胞の順に13.3、0.076、0.003であった。FSHとIGF-Iは主席・発育卵胞で高値を、閉鎖卵胞ではきわめて低値を示した。IGFBP-1は主席卵胞でのみ高値を示した。IGFBPsのligant blotによる分析では閉鎖卵胞でIGFBP-2と-4の結合活性の増加がみられた。 2.各種卵胞液に対しIGFBP-4の分解を指標にしたプロテアーゼ解析を行い、顆粒膜細胞からのプロテアーゼ分泌によるIGFBPの作用調節を明らかにした。 閉鎖卵胞では、他の卵胞に比較して、IGFBP-4のプロテアーゼ活性は有意に低下していた。発育卵胞では閉鎖卵胞と比較して、卵胞液中のFSHおよびIGF-Iの濃度が高く、両者が相乗して顆粒膜細胞のアロマターゼ活性を高め、高E、低Aの環境を形成すると考えられるが、さらにIGF-Iの作用を抑制するIGFIBP-2と-4の結合活性が低下し、IGFBP-4を分解するプロテアーゼ活性が亢進していることより、卵胞の発育・成熟に促進的なIGF-Iの生物作用を高める機構が存在することが明らかとなった。なお、IGFBP-1は、排卵直前の卵胞で高値を示したことより、排卵およびそれに引き続く黄体化と関係が深いものと考えられた。
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