研究概要 |
反復流産の既往のある排卵周期を有する婦人において、血中luteinizing hormone(LH)値が市販の一部の免疫学的測定法(SPAC-S kit.RIA-gnost kit)で感度以下を示した。LH-β subunitのDNA分析でLH-βsubunit遺伝子の2ヶ所で点突然変異があったが、生物学的活性が認められた。このような血中LHの免疫学的活性と生物学的活性とに解離がある症例は古くより報告されているが、その本体は明らかではなかった。 不妊症例(106例)でも排卵のある50例と排卵障害のある56例およびコントロールとして正常経産婦の113例および他科外来通院中の男性患者の119例の合計337例の白血球からゲノムDNAを抽出し,restriction fragment polymorphism(RFLP)により検討した。変異LHのホモの頻度は不妊症例でも排卵障害例(n=56)においてホモはなく、ヘテロが6例(10.7%)で、正常排卵群(n=50)ではホモが1例(2%)ヘテロが5例(10%)でその頻度にほとんど差はみられなかった。またコントロールとしての正常経産婦(n=113)および男性患者におけるホモ(0.88%、1.7%)およびヘテロ(8.8%、8.4%)の頻度とも大きな差がなかった。2)不妊症例(106例)の血中LH値をSPAC-S kit(LH-SPAC)およびIMX kit(LH-IMX)で測定した。血中LHのLH-SPAC/LH-IMXの比は遺伝型のwild typeで0.93〜0.94、変異LHのへテロでは0.47〜0.48、変異LHのホモで0となり、遺伝型のwild typeおよびヘテロでの相関係数は0.89以上で高い相関があった(排卵障害例:r=0.89,0.92,正常排卵群:r=0.92,0.95)。一方、排卵障害例でも多嚢胞卵巣症候群の血中LHのLH-SPAC/LH-IMXの比はではwild typeで0.84、変異LHのへテロでは0.43とやや低値を示す傾向があった。3)排卵障害例(56例)において変異LHのホモは確認されず、変異LHのへテロは多嚢胞卵巣症候群で11.1%(2/18)、体重減少性排卵障害例で20%(2/10)の頻度であり、病因で差がながった。 この変異LHの発見によって臨床的に血中LH値が市販の測定キットでは差が生じることもあるという事実を明らかにすることができた。また変異LHの頻度が10%前後にもあるということは臨床的には無視できない頻度で、血中LH値の解釈には注意を要することを示している。多嚢胞卵巣症候群などでは診断基準に使われている血中LH値やLH/FSHの比の解釈および異常値を示す頻度まで影響を与えると思われる。今後は人種間の相違や進化の過程から変異LHを持つ症例のhCGの塩基配列の分析も残された課題である。
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