研究概要 |
平成6年度までの子宮体癌の腹膜播種に関する臨床病理学的研究から,次の3点を明らかにした。(1)子宮体癌術中腹水細胞診陽性例は必ずしも腹膜播種に進行しない。(2)筋層浸潤が浅く,リンパ節転移陰性例では,術中腹水細胞診陽性でも,術後追加治療なしで,予後が極めてよく,追加治療の必要がない。(3)術中腹水細胞診陽性例に腹腔内にチューブを留置し,術後洗浄腹水細胞診を行った結果,腹腔内に転移巣が残存しなかった症例は,皆術後2週間で陰性化した。すなわち,手術字腹水中に認めた癌細胞は2週間以内に腹腔内から消失した。この結果より,腹膜播種形成の機序として、腹水中の癌細胞が腹膜に生着して播種巣を形成する説に疑問を持ち,以下のことを平成7年度に検討した。 腹膜播種へ進行する危険因子を探究するため,完全摘出症例では術後腹膜播種に進行した例の臨床経過を検討した。その結果,8割の症例にリンパ節転移が先行または同時にみられた。これは腹膜播種形成にリンパ行性進展が深く関与していることを意味する。(癌学会発表) また腹膜播種形成に関与する接着分子を検討するため,原発巣の捺印標本を用いて,インテグリンの発現を免疫染色にて調べた。その結果fibronectin receptor(FNR)陽性17例中6例に付属器転移がみられたのに対し,FNR陰性49例中転移は3例であった。付属器転移とFNR陽性には有意の相関(p=0.009)がみられ、子宮体癌原発巣におけるFNRの発現が付属器転移に関与している可能性が示唆された。(臨床細胞学会ワークショップ発表) 以上がこれまでの研究成果である。来年度も引き続き研究を邁進する所存である。
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