研究概要 |
癌細胞が原発巣から遊離することは転移形成の第1段階であり,その機構には接着分子が関与するとされている。そこで,癌と間質の接着を担うインテグリンに注目した。子宮体癌原発巣における発現と付属器転移やリンパ節転移との関連性を検討し、昨年の癌学会で報告した。 対象は、1992年11月より1995年12月までに当院で手術治療を行った115例の新鮮摘出標本の癌巣割面の捺印標本を材料とした。115例中、付属器転移が10例,リンパ節転移が18例に認められた。捺印標本を95%エタノール固定後,インテグリンのβ1鎖とβ3鎖を認識するモノクローナル抗体を用いてABC反応による免疫染色を行った。 β1の発現は陽性30例,弱陽性20例,陰性61例で,判定不能4例であった。β3の発現は陽性51例,弱陽性15例,陰性49例であった。正常内膜腺は増殖期,分泌期ともに陰性であった。付属器転移10例中、9例がβ1陽性、1例がβ1陰性であり、β1インテグリンの発現と付属器転移には有意の相関(p<0.001)がみられた。β3インテグリンの発現と付属器転移、β1,β3インテグリンの発現とリンパ節転移との相関関係はみられなかった。 上記の検討の結果、子宮体癌原発巣におけるβ1インテグリンの発現が付属器転移形成に関与している可能性が示唆された。今後は基礎的検討をさらに深め腹膜播種に関与するインテグリンについて解析を進める。腹膜播種の形成機序を一端でも解明することで、腹膜播種への進行を予防することが可能となり、癌の治療成績向上に貢献すると考えられる。
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