ガンマナイフ治療をモデル化した10〜40Gyの実験線量を設定したが、照射後1〜3ヵ月までの範囲では、ABRで評価する限り聴力の悪化や、他の脳神経症状も認められず、照射の副作用を捉えることはできなかった。このため、さらに観察期間を延長すると共に、中等度線量の照射実験を追加し、照射線量と組織学的変化との関係について検討した。 臨床線量群での聴力変化は認められなかったものの、40Gy照射群(8耳)では組織学的に蝸牛神経の染色性が低下しており、1例では顔面神経の一部に変性を認めた。 過臨床線量群のうち、60Gy群(2耳)の1例では、聴力低下はないものの蝸牛神経の一部に脱髄を認めた。80Gy群(2耳)の1例では、照射後5ヶ月間に進行する聴力低下、前庭障害、完全顔面神経麻痺を認めた。組織学的には約4mm径の境界明瞭な壊死部が観察された。 すなわち、40・60Gy照射群では機能的変化はないものの軽度の組織学的変化が認められさらなる観察・加齢に伴い、機能的変化が生じる可能性が示唆された。高線量照射群(100Gy)では、聴力低下・前庭障害・顔面神経麻痺が様々な時期に出現、組織学的には主に壊死性の変化を認めた。臨床においても症状の出現時期・程度は同線量でも個体毎に異なり、放射線感受性の差と考えられた。また、100Gy照射群の1例で観察された聴力の変動は、臨床においても若干経験されており、聴力の悪化・回復の時期、ウサギでの組織学的検索から、髄鞘の変性・再髄鞘化、さらに組織障害部位周辺の代謝障害が関与すると推測された。又、臨床での聴力低下は神経の変化ばかりでなく、腫瘍の大きさ・部位、照射後の腫瘍の変性・壊死、腫瘍血管・周囲組織の変化等、様々な要因に左右されると考えられた。 ウサギでガンマナイフの正常蝸牛神経及び周囲組織への影響を検討した結果、照射線量の安全域は30Gy以下と結論した。
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