研究概要 |
突発性難聴治癒例では経過中の聴力レベルと誘発耳音響放射(EOAE)検出閾値の相関が良好であるが、回復例では悪くなることはすでに報告した。しかし、EOAEの出力は1kHz近傍の聴力を反映するため、低域障害型など水平型以外の聴力型では聴力レベルとの間に解離が生じ、また周波数別の評価は不可能であった。周波数特異的な反応を得られる歪成分耳音響放射(DPOAE)で、より詳細な検討や予後の予測が可能かを検討した。 発症後1週間以内に受診した水平障害型の突発性難聴を対象とし、可能なかぎり連日の純音聴力検査(PTA)およびDPOAE/EOAE測定を行った。著明回復例では、聴力レベルの改善に伴って各周波数におけるDPパワーも回復し、健側耳とほぼ同等となった。経時的な聴力レベルとDPパワーの相関関係をみてみると、1kHzのDPパワーは、他の周波数のDPパワーより1kHzの聴力レベルをよく反映、平行して推移したため、さらに周波数別の評価を試みた。 各周波数で評価可能であった6症例で、1,2,4kHzでの相関係数の平均を求めると、各々0.856、0.731、0.613となり、高周波側ではやや低下するも、高い値をとった。内耳の機能がある程度周波数別に評価可能であったが、測定日によってはDPパワーは大きく変動し、そのバラつきのため、ある時点のみでの評価には問題があった。 これに対してEOAEのTotal Echo Power(TEP)は0.952と極めてよく5分法平均聴力レベルと相関した。DPOAEでバラツキの生じた理由は未解析であるが、臨床応用上の問題点として提起された。 経験した症例を通じてDPOAEが聴力レベルに先行して回復した例はなく、この意味でDPOAEによる予後の予測には無理があると考えられた。
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