研究概要 |
急性感音難聴の経過中には聴力レベルと誘発耳音響放射(EOAE)検出閾値がよく相関する。しかし、EOAEの出力は1kHz近傍の直力を反映するため、水平型以外では聴力レベルとの間に解離が生じ、また周波数別の評価は不可能である。このため、周波数特異的な反応を得られる歪成分耳音響放射(DPOAE)で、より詳細な検討や予後の予測が可能かを検討した。 正常聴力者で、DPOAE検査装置(ILO-92)における測定条件を検討し、f2/f1比が1.2〜1.3、L2がL1より10-15dB小さい時により大きなDP出力が得られ、最適であることがわかった。 発症後1週間以内に受診した水平障害型の突発性難聴を対象とし、連日の純音聴力検査(PTA)およびDPOAE/EOAE測定を行った。著明回復例では、聴力レベルの改善に伴って各周波数におけるDPパワーも回復し、健側耳とほぼ同等となった。経時的な聴力レベルとDPパワーの相関関係をみてみると、1kHzのDPパワーは、他の周波数より1kHzの聴力レベルをよく反映、平行して推移した。 各周波数で評価可能であった6症例で、1, 2, 4kHzでの相関関係の平均を求めると、各々0.856、0.731、0.613となり、高周波側ではやや低下するも、高い値をとった。内耳の機能がある程度周波数別に評価可能であったが、測定日によってはDPパワーは大きく変動し、そのバラつきのため、ある時点のみでの評価には問題があった。 これに対してEOAEのTotal Echo Power (TEP)は0.952と極めてよく5分法平均聴力レベルと相関した。DPOAEでバラツキの生じた理由は未解析であるが、臨床応用上の問題点として提起された。 経験した症例を通じてDPOAEが聴力レベルに先行して回復した例はなく、この意味でDPOAEによる予後の予測には無理があると考えられた。
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