1、気管食道瘻発声者が無声子音を発話した際には、新声門が一時的に開大して新声門振動が消失すること、それは新声門を形成する下咽頭収縮筋が一時的に弛緩することで得られることが判明した。すなわち、気管食道瘻発声では、下咽喉収縮筋の筋活動の調節による構音調節機構が存在することが明らかとなった。 2、気管食道瘻発声時下咽頭後壁に生じる下咽頭収縮筋による膨隆からは、発声時だけでなく、純粋な呼吸行為である呼息時にも筋放電が得られることが判明した。気管内圧が一定の場合、筋放電は密度、振幅ともに呼息時の方が発声時に比べて大きいこと、X線的にも呼息時の下咽頭後壁膨隆が発声時のそれよりも大きいことがわかった。以上から、肺の駆動力すなわち呼気圧が同じであっても、呼息時の方が発声時より下咽頭収縮筋が強く収縮しているために呼気が口腔側へ漏れず発声されないことがわかった。すなわち、気食瘻発声時には呼息での筋収縮を発声に都合の良いように減弱させる調節機構があることがわかった。 3、圧トランスジューサ-を経鼻的に被験者の下咽頭に挿入留置し、振動部すなわち新声門の位置について検定したところ、気管食道瘻発声、食道発声両法の新声門が同じであることが判明した。 4、被験者の食道に撓性内視鏡を経鼻的に挿入し、気管食道瘻発声中の新声門下内腔を観察したところ、発声時には新声門下の食道内腔が閉鎖することが判明した。また、下咽頭食道透視を行いながら被験者に気管食道瘻発声をさせると、新声門下で食道内腔が閉鎖することが判明した。この食道閉鎖は呼気が下部消化菅へ脱落することを防ぎ、呼気を新声門振動のために有効に使用させるきわめて合目的的な機構と考えられた。閉鎖部より上方の内腔は呼気のため拡張していることから、この食道閉鎖は食道筋が呼気に同期して収縮して起こっていることが示唆された。 5、気管食道瘻発声における欠点として、瘻孔を通じた誤嚥の可能性がある。これに対し食道筋肉弁を利用した誤嚥防止手術を1983年より施行し誤嚥の機会を著明に減らすことに成功している。この誤嚥防止メカニズムを透視X線検査を用いて明らかにした。すなわち、食塊と食道の拡張を許さない食道筋弁の双方により、気管食道瘻が結果的に絞扼されることと、それを助長する甲状咽頭筋の後上方への収縮の2つによるものと考えられた。
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