内外リンパ内のカリウムイオン濃度を変化させ、半規管電位を記録したところ、電位の変化はクプラの有無に無関係であり、クプラ自体はイオンのバリアーとしては作用しないことがわかった。ストレプトマイシンをカエル内耳内に投与し、頭部傾斜角度からみた平衡障害の回復度と前庭器の形態学的障害度とを比較した。その結果、障害の軽いものほど回復は良好で、半規管電位も保たれていた。さらに、感覚細胞には再生されたものが観察され、これらが今後長期にわたる平衡障害の回復に寄与する可能性はあるものと想像された。つぎに、ストレプトマイシンで前庭器障害を起こした後に前庭神経切断を行った。この場合は、神経の再生はみられず、前庭神経の再生には末梢受容器の生存が必要であることが判明した。さらに、前庭神経切断後、神経の再生を阻害した場合の体平衡の変化と感覚上皮の形態とについて検討した。単純な前庭神経切断後、姿勢は回復するとともに神経もよく再生することをすでに確認している。今回、神経切断部に小骨片を挿入した再生を阻害すると、姿勢の回復は10週後も不完全で、10度ほど回復したにすぎなかった。しかしながら、感覚上皮の形態は正常に保たれており、受容器を機械的内リンパ流動で刺激した際の神経活動電位も観察された。このように軸策の再生がなくても、末梢受容器は形態・機能ともに正常に保たれることから、感覚上皮の維持には周辺の支持細胞の存在が関与することが想像された。なお、ストレプトマイシン内耳内投与後、感覚上皮の障害が高度の場合も姿勢はやはり10度ほどしか回復せず、カエルでは、中枢代償のみでは、姿勢を10度ほど改善する能力しかないことが判った。さらに、中枢代償の程度を検索するために、一側神経切断後、姿勢が完全に回復してから同じ神経を切断した。初回切断時の傾斜角度は約28度であったが、再切断後のそれは16度と減少していた。再切断後の角度が減少したことは、中枢代償がすでに初回切断後に確立されていたためと考えられた。
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