研究概要 |
実験的内リンパ水腫動物の中央階に内リンパ等価液を注入し、慢性内リンパ水腫に内リンパ産生過剰が生じた状態を作成した。このモデル動物の鼓室階外リンパのカリウム濃度を正円窓経由で計測し、鼓室階の高カリウム化が内リンパ水腫疾患における各種症状を説明可能かどうかを検討した。 慢性内リンパ水腫動物は内リンパ嚢を硬膜外より電気的に焼灼して作成した。実験には、内リンパ嚢焼却後2週間から二ヶ月経過した動物を用いた。人工内リンパ液の注入は、0.5,1.0,2.0μLを300-500nl/分の注入速度で行った。カリウムイオン濃度の計測は、微小イオン電極法で計測した。人工内リンパ液中入前のpositive EPは、水腫が形成されている動物では幾分低下していることが知られているが、今回の実験動物でも全例positive EPは低下しており、内リンパ嚢焼灼によって水腫は形成されていたものと判断された。しかし、人工内リンパ液の中央階への注入は、注入量の如何にかかわらず、鼓室階正円窓下のカリウムイオン濃度に顕著な影響は与えなかった。すなわち、0.5,1.0,2.0μL人工内リンパ液め注入実験の鼓室階カリウムイオン活量は、それぞれ、注入前3.68±1.82mM、3.45±1.43mM、3.32±1.12mM、注入後3.38±1.19mM、3.56±1.90mM、3.82±1.51mMで、人工内リンパ液の注入前後で有意の差は認められなかった。 進展したライスネル膜では、イオン透過性が更新していることが予想されたが、内リンパ管閉塞による実験的内リンパ水腫動物ではそのような現象は生じないことが確認された。もし、中央階のカリウムが漏出することが、内リンパ水腫関連疾患の病態を説明するために必要なら、何かイオン透過性を亢進させるもう一つの要因を考える必要があると考えた。
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