内リンパ管閉塞による貯留水腫に内リンパ等価液を注入し、慢性内リンパ水腫に内リンパ産生過剰が生じた状態を作成し、このモデル動物の内耳機能について検討した。1.内リンパ管閉塞二ヶ月を経過すると、Paparellaの分類で中等度以上の内リンパ水腫が形成された。この程度の慢性内リンパ水腫になると、negative EPは人工内リンパ液を内リンパ腔に注入する以前に既に低下していた。人工内リンパ液を注入すると、negative EPはさらに幾分減少するが、その程度は軽度であった。2.慢性内リンパ水腫動物のpositive EP及びAP電位の振幅は低下していた。このpositive EP及びAP振幅の低下は、2μlの人工内リンパ液の注入では変化がないことより、水腫による内耳の慢性変化を反映しているものと考えた。3.SP電位は、慢性内リンパ水腫においても、人工内リンパ液注入前後で著変はなかった。4.CMは慢性内リンパ水腫動物ではかなり低下しており、現時点ではdelayed CMの記録はできなかった。5.誘発耳音響放射の記録を試みたが、クリックで誘発される耳音響放射は、二ヶ月を経過した慢性内リンパ水位腫では消失する。6.内リンパ管閉塞モルモットに人工内リンパ液注入を注入して、前庭神経の単一神経自発活動電位の変化を観測したが、自発放電に有意の変化は認められなかった。めまいの原因は内リンパ腔の急激な増量が原因ではないと考えられる。7.慢性内リンパ水腫動物の中央階に人工内リンパ液を注入したが、注入量の如何にかかわらず、鼓室階正円窓下のカリウムイオン濃度に顕著な影響は与えなかった。進展したライスネル膜では、イオン透過性が更新していることが予想されたが、内リンパ管閉塞による実験的内リンパ水腫動物ではそのような現象は生じないことが確認された。もし、中央階のカリウムが漏出することが、内リンパ水腫関連疾患の病態を説明するために必要なら、何かイオン透過性を亢進させるもう一つの要因を考える必要があると考えた。
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