研究概要 |
1.辺縁細胞は等張条件下でも細胞外液中のClイオンをグルコン酸イオンに置換することによって細胞体積が減少することが発見された.単離細胞の形態計測の結果から,細胞体積の約35%に相当する変化が2分以内に起こることがわかった. 2.上記の体積減少からの回復過程には,細胞外液中のNaイオン,Kイオン,およびClイオンが必須であり,どれが欠けても,もとの堆積までは回復しない.また,この回復過程は10μMのbumetanideを細胞外液に添加すると,約80%抑制される.以上の結果から,辺縁細胞にNa-K-Cl共輸送体が存在することが明らかになった. 3.辺縁細胞を高浸透圧条件下(75mMマニトール添加による)におくと,数分以内にほぼもとの体積に戻る.この調節性体積増加は10μMのbumetanideでほぼ完全に抑制されることからNa-K-Cl共輸送体が調節性体積増加に主要な役割をはたしていることがわかった. 4.辺縁細胞の細胞外陰イオン置換による体積減少の程度は,Clイオンと置換されるイオンの種類に依存しBr<F<I<gluconateの順で効果が大きくなる.これは辺縁細胞に見出された体積依存性Clコンダクタンスのイオン選択性と似ており,関連が注目される. 5.基底細胞の単一チャネル記録法による研究により,コンダクタンス約250pSのmaxi-Kチャネルの存在が明らかになった.基底細胞にはこれ意外にもイオンチャネルが確認されており,これらのチャネルと内リンパ直流電位との関連を現在研究中である. 6.これまでに,内耳血管条を構成する個々の細胞の性質がある程度明らかになったが,内リンパ直流電位の発生機構や内リンパの分泌機構を細胞生理学的に説明するには,さらに研究が必要である.
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