研究概要 |
1.蛋白抗原であるkeyhole lympet hemocyanin(KLH)で全身免疫を行ったモルモット蝸牛に同抗原を注入,抗原注入1日から1カ月後に断頭,内耳組織を採取した.また一部の動物にはauditory brainstem response(ABR)を経時的に施行し,聴力の変化を調べた.この内耳炎モデルでは不可逆性の聴力低下を認め,免疫組織学的には内耳液の恒常性維持に関与していると考えられるNa+,K+-ATPaseおよびgap junctionタンパク(connexin)の染色性が,ラセン靭帯において低下していた.血管条は一部に萎縮等の変化を認めたが,Na+,K+-ATPaseの染色性低下はラセン靭帯での変化に比べ軽度であった.内リンパ水腫の発生頻度は,蝸牛にこのような変化を認めたにもかかわらず低かった.内リンパ嚢の変化は著明でなかった.抗KLH抗体を用いた染色より,今回の実験モデルでは抗原が内リンパ嚢にまで十分に到達していなかったことが示唆されたが,以上の結果を我々の以前の研究結果と併せると,内リンパ嚢の傷害が内リンパ水腫に大きく関与している一方,ラセン靭帯を含む蝸牛外側壁の変化は,聴力低下の原因のひとつとはなりえても,内リンパ水腫の原因には必ずしも結びつかないと考えられる. 2.インフルエンザ菌より抽出したエンドトキシンを中耳腔内に注入,実験的中耳炎を作成し,ABRを経時的に施行した後断頭,内耳組織の観察を行った.中耳貯留液消退後の聴力低下は明らかでなく,血管条,ラセン靭帯におけるNa+,K+-ATPaseやconnexinの染色性の変化も明らかでなかった.IgGの染色性増強がラセン靭帯にみられたことより,エンドトキシンによる中耳の炎症が内耳に影響を及ぼすことは示唆されたが,今後は内リンパ水腫や,内耳のより著明な病理学的変化を来す実験系の確立が必要と思われる.
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