研究概要 |
まず,蛋白抗原であるkeyhole lympet hemocyanin (KLH)で全身免疫を行ったモルモット蝸牛に同抗原を注入し内耳炎を作成した後に断頭,免疫組織学的に内耳の観察を行った。既に報告したように,内耳液の恒常性維持に関与していると考えられるNa,K-ATPaseやgap junctionタンパク(connexin)の染色性が,ラセン靱帯において低下していたが,さらにIgGやalubuminが,抗原注入後の内耳ではラセン靱帯やラセン唇に染色されることが明らかになった。次に,マウスの中耳腔内に肺炎球菌を注入して実験的中耳炎を作成後断頭,内耳組織の観察を行った。通常のHE染色では,内リンパ水腫などの内耳の変化は明らかでなかったが,免疫組織学的にはラセン靱帯,ラセン唇にfibrinogenの染色を認めた。IgGやfibrinogenを血液成分漏出のマーカーとして用い,血液-脳関門の破錠の程度の観察に有用なことが報告されている。今回我々が検討したモルモットやマウスの実験モデルではIgGやalubmin,fibrinogenをラセン靱帯やラセン唇に認めたことにより,内耳の炎症反応が直接的に,あるいは中耳炎が間接的に血液-内耳関門に影響を及ぼしていることが示唆された。また今回の研究でマウスにおける中耳・内耳の実験モデルの系が確立された。マウスに対する抗体は多数市販されており免疫組織学的観察を行いやすく,今後はマウスを用いて内耳をさらに詳細に観察する予定である。
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