7年度は、細胞外カルシウムイオンの細胞内流入以後のBK型カリウムチャネルおよびフロセミド感受性塩素イオンチャネル活性化までの細胞内情報伝達系の解明を行なった。カルモデュリンやプロテインカイネースとの関係を阻害薬を灌流することにより確かめた。外有毛細胞の電気刺激による体積減少を伴う収縮および細胞内塩素イオン濃度の変化は、プロテインカイネースA、G、Cおよびミオシン軽鎖カイネースの阻害薬である1μM H-8、1μM KT5720、100nM staurosporine、10μM H-7および10μM ML-9いずれの存在下でも、どちらも影響を受けなかった。しかしこの収縮および細胞内塩素イオン濃度の変化は、カルモデュリン拮抗薬である10μM W-7により、いずれも消失した。カリウムイオノフォアであるvalinomycin 10μM存在下では、収縮および細胞内塩素イオン濃度の変化に対するW-7の抑制効果は消失した。8年度は、7年度の結果を踏まえ研究を進めCaMKIIの阻害薬である10μM KN-62が、やはりこの外有毛細胞の体積減少を伴う収縮および細胞内塩素イオン濃度の変化を消失させる事、またその効果は、valinomycin 10μM存在下では失われる事が解った。また、蛋白脱リン酸化を阻害する0.2μM Calyculin A存在下では、この収縮も細胞内塩素イオン濃度の変化も消失するが、valinomycin 10μM存在下でも、この効果は、消失しなかった。この結果より、内耳蝸牛外有毛細胞の収縮に関与するBK型カリウムチャネルは、電気刺激によりカルシウムチャネルが活性化されることによりカルシウムが細胞内に流入し、次にカルシウム-カルモデュリン系の細胞内情報伝達機構を介して活性化させる事がさらに示唆された。また同時に、この収縮に関与するフロセミド感受性塩素イオンチャネルの活性化には、Calyculin A感受性蛋白脱リン酸化酵素の活性化が関与していることが示唆された。
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