研究概要 |
一酸化窒素(Nitric Oxide,NO)は、フリーラジカル構造を持ち毒性が強いものと考えられていたが、生体内において重要な伝達物質として機能していることが明らかになった。また、神経組織においても神経伝達物質様の作用をしていることがわかってきた。さらに、神経組織における虚血障害はグルタミン酸の大量放出が障害の一因であり、この過程において、NOが重要なmediatorの一つとして作用していることがわかってきた。白色家兎の網膜におき、網膜虚血状態を作成し、網膜電図(electroretinogram)を指標として、網膜内におけるNOの作用について検討した。 白色家兎の硝子体中にNOの前駆体L-arginine(L-Arg)、NO合成酵素阻害剤nitro-L-arginine methyl ester hydrochloride(L-NAME)、NO供与体sodium nitroprusside dihydrate(SNP)、および対照として灌流液のみをそれぞれ投与する。次いで、眼内圧を上昇させ網膜循環を途絶させ虚血を誘導し、1時間後に加圧を解除する。虚血前の状態及び再灌流後の網膜機能の回復過程を網膜電図を通して観察した。コントロール群ではb波の回復率は再疎通後4時間後に36.5±2.5%(平均±SEM)であったのに対し、L-Argの投与群では46.5±3.1%と有意に上昇し、その一方、L-NAMEの投与群では37.7±1.4%と有意差が検出されなかった。さらにSNPの投与によっては45.7±2.4%とやはり有意に上昇した。 NOの作用は多種報告されているが、網膜内においては虚血性変化に対して保護的な作用が認められた。今回の実験で虚血性疾患に対して、NOの保護効果が応用できる可能性が示唆された。
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