網膜を含む眼組織から細胞においてその細胞分化の調節を検討し、更にその調整を行う因子について検討した。有意な結果のみを以下に記す。 1)網膜由来細胞のTGF-βスーパーファミリー受容体の発現について。RT-PCR法を用いて検討した。細胞としては網膜芽細胞腫細胞株Y79とWERIを用いた。これらは極めて未熟な細胞で各種の分化促進因子により視細胞、グリア細胞などに分化する。RT-PCR法によるとTGF-β受容体としてはI型受容体のmRNA発現しているが、II型受容体の発現は見られなかった。細胞のTGF-βに対する反応性の有無を増殖制御能において検討したところ、やはりTGF-β対する反応は見られず、網膜芽細胞腫細胞株では受容体の発現にも異常があることが考えられた。 2)眼球全体のTGF-β受容体の分布についての組織化学的検討。網膜を含めて眼球の組織が分化を完了した状態でのTGF-βリガンドと受容体の分布について検討した。TGF-βリガンドは角膜上皮、水晶体上皮、網膜神経組織に主に分布していた。一方TGF-β受容体は網膜神経組織には発現は極めて弱く、網膜色素上皮層など周囲組織に分布していた。完成した網膜組織ではTGF-βは網膜そのものではなくその周囲環境に働きかけて網膜恒常維持に関与していると考察した。 3)病的状態における網膜由来細胞のTGF-β受容体の発現。網膜由来の細胞が一度分化してから脱分化-再分化の過程を経て形成されると考えられる病態である増殖性硝子体網膜症、増殖糖尿病網膜症の網膜前増殖膜組織の構成細胞においてTGF-β受容体の発現について検討した。TGF-βが上記の病体に関連して脱分化-再分化に関連している可能性について検討した。増殖膜組織の形成過程初期においてはその発現が多く、細胞が少なくなる後期において受容体発現が減少した。TGF-βが脱分化-再分化に関連している可能性を考えた。 4)神経提由来の細胞である角膜内皮細胞における形質の変化のメカニズムについても検討した。マーカーとしたのはGlucose transporter-1(GLUT1)遺伝子である。上皮増殖因子の投与によると角膜内皮細胞はGLUT1遺伝子発現が上昇し、この作用は蛋白質キナーゼCを介していることを確認した。
|