研究概要 |
免疫組織学的検討では正常眼表面上皮では角膜,結膜を問わず全ての眼表面上皮の最表層細胞の細胞表面でR339抗体で認識されるムチン様糖タンパクは表現されていた。一方,ビタミンA欠乏食を4〜6か月続けたビタミンA欠乏ラットでは,角膜中央部にやや白濁した部位が認められ,その部の角膜上皮細胞は細胞質の拡大,核の縮小があり,パパニコロウ染色でオレンジ色に染色され,角化していた。こうした角化した上皮細胞では眼表面上皮由来ムチン様糖タンパクの表現は消失あるいは著明に低下していた。さらに免疫電子顕微鏡学的検討をおこなったところ,正常では最表層下の2〜3層の角膜上皮細胞でも細胞質内にそのムチン様糖タンパクは認められるが,最表層上皮が著明に角化している部位では,表層下での細胞でのムチン様糖タンパクも消失していた。最表層上皮細胞の角化の程度は角膜の周辺部にいくに従ってわずかに軽減し,それに従って最表層下の上皮細胞ではわずかにムチン様糖タンパクが認められるようになっていたが,最表層上皮での表現はみられなかった。角膜の最周辺部では角膜上皮は角化しておらず,そうした上皮では最表層上皮でもその細胞表面での表現も認められ,最表層下上皮細胞では細胞質に認められるムチン様糖タンパクも正常に近い状態であった。こうした角膜上皮の角化が著明な部分も,ビタミンA点眼(1000IU/ml)4回/日を1〜2週間間おこなうと,角膜の白濁所見は消失,上皮もほぼ正常の形態を回復しており,ムチン様糖タンパク表現もほぼ正常に回復していた。 臨床上も,角化した上皮細胞は上輪部角結膜炎などで認められるが,そうした上皮細胞ではヒト眼表面上皮由来ムチン様糖タンパク抗原(H185)の表現は消失あるいは著明に低下していた。これらより角化上皮では眼表面上皮由来ムチン様糖タンパク表現は低下することが明らかとなった。ヒトでも上輪部角結膜炎などで認められる角化上皮細胞は,治療用コンタクトレンズの治療で上皮の形態がほぼ正常の形態に回復すると,上皮細胞由来のムチン様糖タンパクの表現も正常と同様の表現に回復することが明らかとなった。
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