研究概要 |
我々の用いた培養網膜神経細胞は,グルタミン酸(1mM)の短時間(10分間)曝露により,時間とともに増強する神経細胞死を生じる。この培養網膜神経細胞のグルタミン酸による遅延性細胞死が,プロテインキナーゼCの阻害薬により抑制され,プロテインキナーゼC活性化薬により増強されることがわかった。また,カルシウム蛍光指示薬を用いた検討により,プロテインキナーゼC活性化薬は,グルタミン酸によるカルシウムイオンの神経細胞内流入を増強した。このことから,プロテインキナーゼCの活性化がグルタミン酸誘発遅延性神経細胞死に促進的に関与しており,この機序は,グルタミン酸による細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を,さらに増強することによると考えられた。以上のようにイノシトールリン脂質代謝系は,グルタミン酸毒性に対して促進的に働くことが示唆されたが,それに加え血管作動性腸管ペプチド(VIP)を用いて,アデニル酸シクラーゼ系が,グルタミン酸による遅発性神経細胞死に関与するか否かについて検討した。VIPは,網膜でアデニル酸シクラーゼ系を刺激し,サイクリックAMPを上昇させることが知られているが,グルタミン酸と同時にVIPを培養網膜に処置した場合,神経細胞死を抑制することが新らたにわかった。また,今までの報告と同様に,我々の培養系でアデニル酸シクラーゼの活性化薬であるフォルスコリンがグルタミン酸誘発神経細胞死に対して保護作用を示したことから,VIPは,アデニル酸シクラーゼ系を活性化することにより,神経細胞死に対して保護作用を発揮するものと考えられた。以上のように,網膜神経細胞のグルタミン酸による遅発性神経細胞死には,いくつかの細胞内情報伝達系が密接に関与していることがわかった。
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