研究概要 |
種々のヒト眼瞼・眼窩腫瘍組織を構成する個々の細胞について、細胞表面の複合糖質の糖鎖をレクチン組織化学的に検索するとともに、細胞質内のシアル酸転移酵素のmRNA発現分布をin situ hybridization組織化学的に検索し、比較、検討したところ、個々の細胞の糖鎖合成に関する動的情報を読み取ることができることが判明した。即ち、シアル酸含有糖鎖合成が、活発な細胞、既に終了した細胞、および行われていない細胞を識別できるとともに、当該複合糖質糖鎖のturnover速度などを推測することが可能であることが判明した。具体的には、基底細胞癌の腫瘍細胞塊辺縁に柵状に分布する腫瘍細胞の複合糖質の糖鎖は、Galβ1,3 GalNAcとGalβ1,4 GlcNAcまでは形成されているが、シアル酸は転移されていない段階にあり、腫瘍細胞塊内部の腫瘍細胞はシアル酸が転移されていることが明らかになった。眼瞼脂漏性角化症、および涙腺多形腺腫についてもこの糖鎖組織化学的解析が有用であった。その他のマーカーについても免疫組織化学的に検索したところ、O-結合型複合糖質であるムチン関連糖鎖抗原のMUC1が、眼瞼腫瘍の悪性形質の発現に関与している可能性が示唆された。一方、細胞増殖期に検出されるKi67の陽性細胞の割合が、眼瞼良性腫瘍と悪性腫瘍の鑑別に有用であることが明らかになった。さらに上皮系細胞の中間径線維であるケラチンの発現・分布についても検索したところ、眼瞼基底細胞癌は同一種類のケラチンを含む均質な腫瘍細胞で構成されるのに対し、扁平上皮癌と皮脂腺癌は種々のケラチンを発現、あるいは全く発現しない、様々な分化の程度の異なった腫瘍細胞で構成されることが明らかになった。本研究手法は当初の予想どおり、個々の細胞レベルで種々の腫瘍組織の病態とシアル酸含有糖鎖発現との関係を理解するのに有用であることが判明し、糖鎖病理学の新しい研究方法を確立することができたと言える。
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