研究概要 |
近年、筋線維芽細胞(MF)が組織の損傷治癒過程で重要な働きをなすことが明かとなって来ている。私達は角膜の損傷治癒過程においても実質細胞がMFに形質転換することを明らかにした。 今回、創傷の治癒過程における細胞外基質(ECM)再構築に重要な役割を行っている、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)とそのインヒビターであるTIMPがMFによって産生される可能性について検討を行った。さらに新生血管内皮細胞におけるMMPの発現についても検討を行った。実験はウサギ角膜にアルカリ損傷、全層切開、Arthus反応による損傷を惹起させ主として形態的検索を行った。 この結果、光顕及び電顕免疫組織学によりアルカリ損傷及び全層切開群において、MMP-1はMFに1週間目より明かな発現を認め、MMP-2、MMP-9は4週目頃より発現の増強が観察された。MMPの発現はアルカリ損傷群により強い発現が観察された。TIMP-2はいずれの損傷においても1週目よりMFに陽性であった。In situ hybridizationによりMFにMMP-9のmRNAの存在が確認された。MMP-2,MMP-9についてgelatin zymographyにより検討したところ、形態的観察とほぼ一致して活性型のMMP-2及びMMP-9の存在が確認された。角膜内にArthus反応を起こすことにより夥しい血管の新生が観察され、これらの新生血管の内皮細胞は普遍的にMMP-2の発現を認められた。一方、MMP-9は血管進展領域部の内皮細胞のみに陽性であった。 MFはすでに報告されている様にECMの産生に関与して損傷治癒を進めるばかりでなく、損傷により生じた変性ECM及び本来角膜にはほとんど存在せず、治癒過程に合目的的にMF自ら産生したType III、Type IVコラーゲンの様なECMのその後の分解などにも関与し、組織の再構築により積極的に参加していることが明らかとなった。血管新生に関してはMMP-9が重要であることが示唆されたが、今後さらに検討する予定である。
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