(目的・方法)ヘルペス眼内炎を代表とする眼内感染症では、網膜を発症と脳内伝播の主座とした。この推移を追求する指標として、網膜サブスタンスP受容体発現をin situ hybridization法を用いて検出し、感染の進展にともなう変化を明らかにした。 (結果)正常眼では網膜神経節細胞層の多くの細胞と内顆粒層のやや小型の細胞にサブスタンスP受容体遺伝子発現がみられた。サブスタンスP受容体遺伝子発現細胞の網膜神経節細胞層での分布は後極部に密で辺縁部では疎になった。内顆粒層での発現細胞は後極部にも辺縁部にも均等に分布していた。視神経損傷ののち、サブスタンスP受容体を発現する神経節細胞は2日目から減少し、7日と14日には僅少となり、28日にはほぼ消失した。一方、内顆粒層の発現細胞は28日に至るまでみられた。true blue標識を組合せた実験の結果、true blueで標識されたほぼすべての神経節細胞にサブスタンスP受容体遺伝子発現がみられた。 (考按と結論)以上の結果、1.第1次視中枢に軸索を送る多くの網膜神経節細胞がサブスタンスP受容体を発現することがわかった。2.視神経損傷により網膜神経節細胞に軸索変性が生じた結果、その遺伝子発現が著明に消失したことから、視神経損傷後4週目までの神経節細胞の活動性にサブスタンスP受容体遺伝子が関与し、網膜神経節細胞の軸索変性からの回復過程におけるサブスタンスPの関与の可能性が示された。3.内顆粒層におけるサブスタンスP受容体発現細胞は、形態と出現部位から、多くはアマクリン細胞であると判断された。サブスタンスP含有網膜細胞に関するこれまでの形態学所見や、局所投与したサブスタンスPに電気生理学的応答を示す網膜細胞を解析した研究所見は、いずれも上記の結論を支持するものであり、本研究はサブスタンスP受容体の網膜局在発現に確たる証拠を提出したものと考える。
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