β-シトリル-L-グルタミン酸(β-CG)がレンズに高濃度存在し、しかもレンズ細胞へと分化する細胞の多いレンズ皮質赤道部に局在していることを見いだし、本化合物がレンズ細胞の増殖あるいは分化に重要な役割をしているのではないかと考えた。そこでニワトリやウシの網膜の色素上皮細胞は限定された培養条件下で、脱分化して上皮細胞としての特性を失い、多能性の細胞に変化した後、培養条件によって、再び色素細胞へともどるか、あるいは水晶体線維細胞へと分化転換する実験系に着目した。 1.網膜あるいは虹彩色素上皮細胞から水晶体線維細胞への形質転換条件の検討 ヒヨコおよびウシ網膜色素上皮細胞を培養し、脱分化した多能性細胞に変化させた後、再び色素細胞に戻すか、あるいは水晶体線維細胞に変化させようとした。多能性細胞への変化および元の色素細胞への逆変化の条件はほぼ確立したが、水晶体線維細胞への形質転換は条件設定が微妙で、再現性のある培養条件を見いだせていない。最近虹彩色素細胞から水晶体線維細胞への形質転換の方が再現性がよいという報告があるので、現在この系について検討中である。 2.β-シトリルグルタミン酸特異水解酵素の部分的アミノ酸配列の決定 β-CG特異的水解酵素の精製に成功し、そのいくつかのサブユニットの内β-CG特異的抗体が認識するサブユニットについてアミノ酸配列の決定を試みたが、N-末端がブロックされていた。そこでBrCNやトリプシン消化で断片化した後、HPLCでペプチドを分離し、再度アミノ酸配列を決定したところ、現在数個のペプチドについて配列決定に成功した。
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