研究概要 |
外眼筋を構成する筋線維は,眼球側に多く分布する速筋線維と眼窩側に多く分布する遅筋線維とに大別できる.前者はおもにすばやい眼球運動をおこし,後者は持続的に活動して眼球を固定するために働くとされる.しかし,それぞれの収縮特性や粘性・弾性などの物理的性質には不明な点が多くある.本研究は,双方の筋線維をもつ白色家兎の上直筋と速筋線維のみからなる眼球後引筋の収縮を比較することで遅筋線維の収縮張力と粘弾性を明らかにすることを目的とした. その結果, 1.等尺性収縮時に急速短縮(quick release)させると筋の張力は急激に低下したがその後もとの張力レベルに向かって指数関数的に回復した.張力回復は上直筋よりも眼球後引筋のほうが大きかった. 2.振動により起きる張力変化を静止時P_Oと収縮時Pとで比較するとP/P_Oは剛度を表す.上直筋のP/P_Oは眼球後引筋のそれの約1.5倍であった. 3.遅筋線維のcontraction timeは20〜27msec.であり,速筋線維の10msec.と比較して明らかに長かった.すなわち遅筋線維はゆるやかに収縮していた. 4.2分間の持続刺激の後に残存した張力は眼球後引筋では0gであった.これにたいして上直筋では2-3gの張力が残存していた.これは上直筋の全収縮張力の約20%であった. これらの結果から,遅筋線維は単にゆっくりと収縮して固視させるのみでなく,高い粘弾性を有して眼球の揺れを積極的に防ぐ働きをもつことが明らかとなった.
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