研究概要 |
我々は胆道閉鎖症(BA)の術後症例における合併症(胆道炎など)の病態につき検討するため,その基礎的データを得ることを目的として,比較的安定した経過をとっている症例において補体系因子,サイトカイン等の血中動態を検討してきた。しかし補体系の濃度は,本来蛋白質の生合成と分解を伴う比較的time legの大きい因子であり,今回の我々の検討でもその変動は病態による差異が乏しく,従って本研究の目的にかなう指標とは考えられなかった。一方,ネットワークを構成するサイトカインのうち,我々が検討したIL-1系の因子にも,BAの術後安定期例の多くでは明らかな異常はみいだしえなかった。更に造血因子についても,これまで検討されてきたエリスロポエチン,G-CSFなどの値はほぼ正常の範囲内にとどまっていた。しかし,サイトカインとしてはその発見が最も新しいトロンボポエチン(TPO)については,門脈左亢進症による脾機能亢進症・血小板減少をみとめる症例にあっては高値をとる場合のあることが判明し,BA患児における脾機能亢進症の本態を,サイトカインの面より解明する糸口になったものと考えられる。TPOは肝で産生されると考えられているが,これまでの臨床的検討ではBA患児では術後胆管炎が脾腫・脾機能亢進症の憎悪因子となることが知られており(一部は不可逆性),TPOと胆管炎との関連にも注目した研究が続けられている。それに加えて,脾機能亢進症に対する合理的な治療として行われる部分的脾硬塞術,更には生体部分肝移植術がTPO産生、血中動態にいかなる影響を及ぼすか,という点についても現在臨床的に検討をはじめているところである。
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