経皮的胃電気活動記録(胃電図)は非侵襲的消化管運動測定法の1つであるが、誘導及びその解析法が難しくその臨床応用は限られていたが、測定機器の進歩及び解析法の進歩により成人例では検討され始めてきた。しかし小児例での系統的な測定解析による報告は殆ど見あたらない。そこで平成7年度は小児でも成人同様に胃電図の導出記録が電極等の工夫により可能であるか、可能であれば食事投与前後でどのように変化するか、更に食事の形状や成分が如何に影響するか検討することとした。その後、新生児胃破裂術後遠隔期例に胃電図を臨床応用し機能評価を試みた。その結果、新生児用の銀塩化銀電極で小児でも成人同様心窩部双極誘導で導出可能であったが、小児では体動が無視し得ず短時間でより情報の得られるMEM法による周波数解析が有用であった。更に食後期にはピークスペクトルパワーが殆どの症例で空腹期に比し増加し、食事の成分や形状によりパワー値に差異が認められたことよりこれらがパワー値に何らかの影響をがあることと、パワー値の推移が胃排出能の目安となる可能性が示唆された。また、新生児胃破裂術後遠隔期例の胃電図測定では臨床的に腹部愁訴や成長障害を認めない症例でも大弯側破裂群や破裂部面積が大きい症例ではピーク周波数が対照群に比し低値であったことやピーク周波数の変動も胃破裂術後群で対照群に比し食後期に高値を示したことなどから胃破裂術後群ではペースメーカーとしてのCajal間質細胞が破壊され胃の電気活動も障害されたものと考えられた。平成8年度は更に臨床応用の一環として食道閉鎖症術後例に焦点を絞り胃電図検査によりそれらの胃運動について検討を行った。食道閉鎖術後群13例中5例にdysrhythmia (DR)を認めうち3例は食事に関係ないDRで2例は食後期のみのDRであった。DR例に消化管透視を行うと3例が軽度の胃食道逆流例であった。DRを伴う術後群はDRを伴わない術後群に比し平均ピーク周波数は有意に高値であった。ピーク周波数の変動係数ではDRを伴う群がDRを伴わない群に比し有意に高値を示した。パワー比では食道閉鎖術後群が対照群に比し有意に低値を示した。これらより食道閉鎖症例には内因性抑制神経ないし外因性自律神経抑制の欠如などの神経支配異常の存在が示唆された。以上から小児における非侵襲的な胃電図の意義は十分あるものと考えられた。
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