人間や動物を使った創傷モデルにおいてアルギニンを全身投与すると、創傷治癒の促進や免疫系の賦活作用があるとされているが、そのメカニズムについては不明な点が多い。最近アルギニンから産生される一酸化窒素(NO)が注目されている。さて、成体と胎仔では創傷における炎症反応やその後の瘢痕形成に相違が認められる。胎仔では炎症反応が最小限で、特に早期炎症反応が欠如している。その後の経過でも胎仔は創部の再生が起こり、成体のような瘢痕を形成することなく治癒する。このような治癒過程の相違が注目されており、胎仔の創傷メカニズムを解明し、成体に応用することで創部の瘢痕形成を抑制する可能性が期待される。本研究の目的は創局所において(1)NOの動態を明らかにする。(2)NO様の作用物質の投与や阻害剤の創傷治癒に対する影響を明らかにするために、以下の検討を行った。 家兎成体と胎仔におけるポリビニルアルコールスポンジ(PVA)を使った創傷モデルを用い、(1)創滲出液を経時的に採取し、創滲出液中のNOの代謝産物である亜硝酸+硝酸を測定した。NADPHジアホラーゼ法によりNOS活性の局在観察した。(2)ニトロプルシド及びL-NMMAを創部に注射し各々の創部を組織学的に検討した。 結果:(1)亜硝酸+硝酸濃度は成体では受傷後2日目に一峰性のピークがあり、胎仔では受傷後1日目と5日目の二峰性のピークが認められた。NOS活性が胎児の受傷後5日目の創部マクロファージに認められた。(2)成体及び胎仔創部においてニトロプルシド及びL-NMMAは組織学的に変化を来さなかった。 創部においてNOの変化及びNOS活性の局在が確かめられたが、創部に対するNOの影響については不明であった。
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