破歯細胞は生理的脱落期の乳歯歯根表面に見られる細胞で、我々は、ヒト乳歯より破歯細胞の分離を試み以下の所見を得た。また、予備実験としてラットを用い、カテプシンL、I型コラーゲン、ラット唾液腺シスタチン-3(RSC-3)の局在に対するE-64(システインプロテアーゼ阻害剤)の影響を免疫電顕的手法により調べた。 ヒト脱落期乳歯より分離した破歯細胞は、酒石酸耐性酸性フォスファターゼ陽性反応を示し、ヒト象牙質切片上で吸収窩を形成した。また、カルシトニンに対する反応性を調べるために、培養破歯細胞に5mU/mlのカルシトニンを加え位相差顕微鏡でその形態変化を観察したが、破歯細胞の形態変化は認められなかった。ヒト破歯細胞は入手できる乳歯が限られており播種できる破歯細胞の数も限られている。また、分離後、ヒト破歯細胞はほとんどが1日以内に培養皿もしくは象牙質切片上から分離してしまうため、今の所多くの結果は得ていない。今後はひとつの乳歯から分離できる破歯細胞数の増加と培養条件の改善による生存期間の延長が課題である。 ラットにE-64を投与した結果、カテプシンLは未投与群では骨吸収窩に強く認められたのに対し、E-64投与群では細胞外には弱く、細胞内の空胞に強い反応が認められた。I型コラーゲンに対する反応は、未投与群では細胞内には認められなかったが、E-64投与群では細胞内空胞にも認められた。RSC-3は未投与群ではその局在は不鮮明だが、E-64投与群では破骨細胞の明帯と刷子縁に強い反応が認められた。これらの事より、E-64によりカテプシンLの破骨細胞からの放出は抑制され、I型コラーゲンの細胞内への取り込みが生じる事が明らかになった。また、RSC-3の局在は、カテプシンL等の分泌抑制に強く相関があることが示唆された。
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