研究概要 |
破骨細胞は造血幹細胞に由来する大型で多核の骨吸収細胞である。近年、破骨細胞の試験管内形成系が確立され、種々のサイトカインが破骨細胞の分化に関与することが明らかになってきた。また、破骨細胞はマクロファージと近縁関係にあり共通の分化単位から派生すると考えられていた。ところで、造血系細胞の分化は各細胞系列に特異的あるいは選択的なサイトカインの作用と細胞自体の分化の引き金としての核内転写因子の発現により決定されることが知られている。最近Nguyen等は、核に存在しDNAに直接作用する転写因子のひとつであるEgr-1の発現が骨髄芽球のマクロファージへの分化に必須であることを見いだしており、この転写因子をコードする遺伝がマクロファージへの分化を決定する遺伝子であることを明らかにした(Cell,1993)。そこで筆者等は、破骨細胞の前駆細胞をラット骨髄から形成される培養系に、Egr-1のmRNAに相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを添加することによりEgr-1を発現できない状態にして培養を行ったところ、マクロファージ様の細胞には著しい形成阻害が認められたのに対し、破骨細胞系列の細胞の形成抑制は全く起こらず、逆に有意な形成促進効果を認めた。ラット骨髄を用いた単核の前破骨細胞形成系に於て、アンチセンスEgr-1は顕著に前駆細胞の形成を促進した。全骨髄培養に於ける破骨細胞の形成は極くわずかのみ促進されたが有意な効果でない場合もあった。そこで、Egr-1を発現誘導することが知られているPMAを添加してその効果を調べたところ、顕著な破骨細胞促進効果を認めることができた。なお、PMA存在下で骨髄を培養すると多くの異物巨細胞が出現するのであるが、アンチセンスEgr-1で更に24時間だけ処理すると多数の破骨細胞前駆細胞が出現した。これらの結果は、破骨細胞の分化にEgr-1が調節的な働きを演じていることを示唆しており、現在、in situ hybridization法を用いてラット骨組織に於けるEgr-1の発現を解析中である。本研究成果の一部は本年度の歯科基礎医学会で既に報告している。
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