味蕾は支配神経を切断すると、数が減少し、10日後位までに消失する。そして神経が再生すると味蕾は再生する。すなわち味蕾は神経依存性であり、支配神経は味蕾の分化、増殖、維持に働く栄養因子を持つと考えられる。培養中の交感神経細胞は、神経栄養因子である神経成長因子(NGF)を除くと、アポトーシスにより死ぬことが報告されている。そこで支配神経切断により、味蕾細胞がアポトーシスに陥るかどうかを検索した。さらに、チュブリンと結合し、微小管の構築を阻害するコルヒチンを投与すると、味蕾細胞の一部は変性に陥るが、この時の細胞死もアポトーシスかどうかを調べた。 成熟dd-マウスの舌咽神経を切断し、1日から11日後までの舌有郭乳頭の味蕾の変化を観察した。アポトーシス細胞を検出するTUNEL(DNA nick end labeling)反応陽性核は、controlでも時折見られたが、神経切断後1日目で急激に増加し、以降、味蕾の減少とともに減少し、11日目には消失した。透過電子顕微鏡観察では、神経切断後の味蕾にアポトーシス細胞に特有の核のクロマチンの凝集像や、アポトーシス小体が認められた。またdd-マウスの腹腔内に4mg/kgのコルヒチンを投与し、15時間から5日後の有郭乳頭を調べると、TUNEL陽性核は15時間後と1日後で、味蕾内と、重層偏平上皮細胞の基底層とその上の層に多数出現し、3日以降急速に減少した。電顕でも、TUNEL陽性核の出現する部位に一致して核の濃縮像、断片化が認められた。 以上より、支配神経切断後の味蕾の細胞死はアポトーシスによるものであり、支配神経が分泌する味蕾の栄養因子はアポトーシスを抑制する効果を持つと考えられた。また、味蕾細胞はコルヒチン投与により微小管が減少し障害を受けることに加えて、支配神経線維の微小管減少によるアポトーシス抑制物質の流入途絶により、アポトーシスに陥ると推測された。
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