研究概要 |
破骨細胞の分化にbasic helix-loop-helix (bHLH)構造を有する転写因子mouse stem-cell leukemia (mSCL)が関与しているか否かを、妊娠マウス14日目の胎児頭蓋冠全骨細胞による破骨細胞形成系で、SCL遺伝子発現の動態とmSCL antisense oligonucleotideを用いたSCL遺伝子抑制実験から解析を試みた。 1、頭蓋冠全骨細胞からPercollによる比重遠心分離によって調整したosteoclast progenitor rich populationに、10^<-8>Mの1α,25-(OH)_2D_3を添加し、経日的にその培養細胞のmSCL遺伝子発現の動態をRT-PCRにより調べたところ、1α,25-(OH)_2D_3非添加ではSCL遺伝子発現が時間依存的に減少したが、1α,25-(OH)_2D_3添加によって、SCL遺伝子発現は上昇傾向が認められた。また、この培養条件で形成された吸収窩は、3日目から認められ、その数は7日目まで増加した。 2、頭蓋冠全骨細胞をdentine slice上に5x10^5個移植し、1α,25-(OH)_2D_3(10^<-8>M)刺激下にmSCL antisense s-oligonucleotideとmSCL sense s-oligonucleotideをそれぞれ作用させ、TRAP陽性細胞形成と吸収窩形成におけるSCL遺伝子の関与を検討したところ、mSCL antisense s-oligonucleotide 2μMを作用させることにより、明らかな吸収窩形成の抑制が認められた。さらに、この吸収窩の減少は、TRAP陰性の時期にそのanti-sense oligonucleotideを添加することにより認められた。 3、10^<-8>Mの1α,25-(OH)_2D_3刺激によってdentine slice上に形成されてきた成熟破骨細胞を、プロナーゼ処理で間葉系細胞から分離し、RT-PCRの手法を用いSCL遺伝子発現を調べたところ、明らかにこの遺伝子の発現が認められた。 以上の結果から、SCL遺伝子は破骨細胞分化の初期の段階から関与し、骨吸収機能の獲得に重要な役割を演じている核内転写因子の一つである可能性が示唆された。このSCL遺伝子が成熟破骨細胞で認められたこと、そしてこの遺伝子発現は血液系細胞で認められるが間葉系細胞では認められないという知見から、mSCL antisense s-oligonucleotideによる破骨細胞分化抑制効果は、osteoclast progenitorに直接作用した結果であると考える。
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